前回に引き続き、軽井沢・安曇野の旅行についての報告です。
埼玉で軽キャンピング車を借りて、車中泊を行いながらの建築旅です。
<1日目>
東京〜首都高〜中央自動車道〜諏訪IC〜茅野市美術館〜神長官守矢史料館〜ビーナスライン〜白樺湖
<2日目>
(美ヶ原高原美術館)〜大王わさび農場〜安曇野ちひろ美術館〜ハルニレテラス〜トンボの湯
<3日目>
軽井沢コモングラウンズ〜軽井沢千住博美術館〜東京
安曇野市 美しい川辺の景色と内藤建築
湧き水が豊かな長野県中部の安曇野。諏訪市からビーナスラインを通り、市内へアクセスしました。
大王わさび農場 美しい川辺の自然とわさび畑
豊かな北アルプスの雪解け水からの伏流水を利用したわさび農場です。規模は日本随一で、アルプスの山々を背にした雄大な景色が魅力です。
入場料も無料ですので気軽に訪れることができます。
わさび畑は川の水を分流させてつくられています。南北約1kmものわさび畑が広がります。上記写真のように寒冷紗で日差しを遮って栽培されている様です(時間帯によっては寒冷紗を畳む様です)。ですので景観としては少し美しいものではないかもしれませんが、規模に圧巻されるでしょう。
このわさび畑は大正時代に個人事業主が始めたそうです。5町村にまたがる所有者との交渉や大規模な畑の開拓は、なんというか一攫千金の夢を求めるロマンのようなものを感じます。敷地内には博物館も併設されているので、そちらも見学すると面白いかと思います。
レストラン棟や売店もあります。中でもわさび飯は大変人気なようで、私が訪れた際にはかなりならんでいました。また、こどもが川に足を入れて楽しめる場所なども用意されており、観光地としてのホスピタリティも十分ありました。
有名な観光地であり、駐車場もかなり用意してあったので観光しやすい施設かと思います。
安曇野ちひろ美術館 訪れるべき内藤建築
設計 内藤廣
内藤廣の建築はこれ以外の建物もいくつか訪れています。
1997年4月に開館した美術館です。
築15年ほど経っていますが、まだまだ目立って汚れたり老朽化していないようです。
建物は広大な公園の中、小さな丘の上に建っています。駐車場・バス停からは、小川の流れる美しい公園と丘をゆっくりと歩きながら美術館にアプローチすることになります。アプローチを長く取ることで、今から美術鑑賞をするという心の切り替えができるようになっています。
アプローチの歩道が曲がりくねりながら美術館に接続されるのは、どちらかというと日本の建築の流儀に近い様に思います。そうすることで建物が公園の中心にある、という位置づけではなく、公園の一部として存在するという考えになっていると思います。
こちらの公園も美術館を整備する際に内藤廣が設計した様です。
山並みを背景に、コンクリートの壁の上に山並みと呼応するように三角屋根が並ぶ外観をしています。細長い切妻屋根を連続して配置して空間を作っていくのは、内藤建築の特徴です。
内部は三角屋根の裏側、架構がむき出しになっていて、その架構が端正にデザインされておりライトアップされており美しいです。床もフローリングにしてあり、壁も塗り壁になっており、空間全体として自然素材で柔らかに作られたイメージになっています。
屋根の架構は集成材ではなく、通常流通している角材を利用することでコストも合理的にしているようです。棟のカーブ部のみ集成材を利用しているそうです。棟にカーブした材を用いることで力学的にも合理的に細い材で架構が組めるようになっているそうです。
三角屋根のスパン(構造の支点と支点の間の距離)が、ちょうど展示室と廊下を足した長さになっています。その柱部分は上に屋根の雨水を受ける横樋があるので、少し天井が低く平らになります。その部分に美術鑑賞をしている際少し休めるように椅子が置いてあります。他の場所より天井高が低いので、落ち着けるスペースにもなっています。
館内には中庭もあります。建物の窓際は住宅スケールの落ち着いた空間になっているので、まるで日本家屋の様な庭と親密な関係を作れているように思います。
ちなみに家具は建築家中村好文が設計したもので、機能的にデザインされていながらもあたたかみがあり、可愛げのあるものになっています。
カフェもあります。カフェは展示を見たあとにゆっくり休めるよう、非常に景色の良い場所にレイアウトされています。絵本も読めるのでぜひここで一服してください。
ちひろ美術館は東京にもあります。こちらも内藤廣設計です。住宅ほどの小さな建物ですが、居心地の良い建築です。
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軽井沢町
安曇野市から高速を利用し軽井沢に向かいました。安曇野市も結構涼しかったのですが、軽井沢はさらに涼しく、改めて避暑地とうたわれているだけはあると感じました。
ハルニレテラス 森の中の素敵な集落
設計 東 環境建築研究所 ランドスケープ:オンサイト計画設計事務所
設計は、東環境建築研究所の東利恵です。建築家東孝光(東京、外苑前の「塔の家」で有名な建築家)の長女にあたる方です。住宅建築や星野リゾートを多く手掛けていらっしゃいます。
「星野エリア」につくられた商業施設群です。国道と湯川に囲まれた敷地に9棟の建物が作られています。もともとあったハルニレの木を避けて建てられているそうです。
周囲の雑木林や、隣接する湯川との距離感がとても近いです。それが軽井沢らしく、涼しさをより強調されて見えます。既存のハルニレを残して建物を配置していることや、ウッドデッキで雑木林との境界を作っていることが自然との距離感をちょうど良いものにしているのかもしれません。
また建物も雁行した配置になって、自然にできた集落のように見えます。入り組んだ構成になっていることで多様な居所ができています。土地の段差をそのまま利用されており、階段やベンチが適所に用意してあります。
また、冬季の降雪を配慮してでしょうか、建物の入口には庇が大きく出ています。そうすることで、建物と外部の境界が少し穏やかになっています。庇下はカフェスペースにもなっています。
トンボの湯 かなりコージーな温泉
ハルニレテラスからすぐのところにある温泉です。
ハルニレテラス同様もとからあったであろう雑木林のなかに建っています。
メインの内湯は広く、長方形の形で深さがあります。男湯の深さは90センチあるそうです。その内湯の正面は一面ガラスになっており、雑木林の緑を楽しめます。夜には自然がライトアップされ、温泉の水面に緑が映り込んで美しいです。
露天風呂は大きな自然石を組んで作ってあります。サウナの水風呂を含め、こちらは和風庭園の池のように自然な入り組んだかたちになっています。
サウナは、露天風呂を囲む様に渡り廊下でつながっています。渡り廊下にはベンチが設えてあり、サウナのインターバルで休めるようになっています。その際も庭園のような露天風呂とその先に広がる雑木林を眺めることができます。
ここの温泉は本当にしっかりデザインされている感じがしました。素材も天然石や木材を利用されており、ただ体を洗う場所にはなっておらず、ゆっくりするための場所になっています。
泉質は柔らかい単純泉なのであまり温泉感がないのですが、十分体が休まります。デザインとしてもおすすめの温泉でした。
トンボの湯 https://www.hoshino-area.jp/tombo-no-yu/
旅行をもっと簡単に【Trip.com】ハルニレテラスはレストランもおしゃれ
村民食堂
ハルニレテラスには、食事をするスペースがたくさんあります。どこも評判も良さそうですし雰囲気も良さそうです。私が利用した村民食堂も、名前を聞くと小汚い(笑)食堂をイメージしてしまいそうですが、ハルニレテラスのなかにあるだけあり、吹き抜けの空間のオシャレな食堂です。和食がメインでそばや山菜など信州らしい食事をいただけます。
村民食堂 https://www.hoshino-area.jp/sonmin-shokudo/
ベーカリー&レストラン 沢村
モーニングにも自家製パンを提供してくれるお店があります。連休などは並ぶ可能性もありますがぜひ。食後には朝方のハルニレテラス周辺の自然を散策するのも良いと思います。
ベーカリー&レストラン 沢村 https://b-sawamura.com/shop/118/
教会建築も必見
ハルニレテラスから5分弱木立を抜けて散歩すると、2つの教会にたどり着けます。軽井沢高原教会、石の教会どちらも必見です。ただ結婚式などがある際は見学できないので要注意です。
軽井沢高原教会 https://www.karuizawachurch.org/
石の教会 https://www.stonechurch.jp/
Karuizawa Commongrounds
設計 クライン・ダイサム・アーキテクツ
約10,000平米ほどの敷地に、tsutayaの書店、カフェ、物販、インターナショナルスクールなどが点在する複合施設です。
小さな丘状の雑木林の中に、いくつかの木造建物が建っている構成になっています。
丘の上に建っている一番大きな建物が書店です。この建物は元々敷地内にあった大学施設を改修して作られた様です。下屋(1Fの飛び出た部分)がスカート状に四周に広がっている外観になっています。改修の際、この部分が新たに付け加えられたようです。
下屋部分は庇を大きく張り出させ、外部にはテラスが廻してあります。そして一面窓ガラスになっています。テラスでは外気に触れながら喫茶をしたり、読書をしたりできます。
庇が深くあることで、テラスが落ち着いた雰囲気の場になると同時に、積雪時でもガラスを守る様になっていのでしょう。
木造建築では強度上の理由でなかなか一面ガラスにすることは出来ません。この建築の下屋がガラス張りにできているのは、一部鉄骨を利用しているからの様です。鉄骨で強固に構造を作ることで、壁を作ること無く、窓まわりには細い鉄骨柱だけで済ませることが出来ています。
インテリアは木材を多用し、天井も張らないことで開放的で清々しい雰囲気になっています。内部からも外の緑がよく見えてとても気持ちの良い空間です。
書店内にもアートや雑貨や栃木で有名なSHOZO COFFEEなどが入り、ゆっくり過ごすことが出来ます。敷地内の店舗もモーニングのお店やしゃれた立ち食いそばお店など面白そうなお店が多いです。
是非建築見学と一緒に楽しんでください。
軽井沢千住博美術館 死ぬまでに一度は見ておきたい名建築
設計 西沢立衛
軽井沢で一番おすすめの建築です。
床も天井も波打っており、真っ直ぐな場所がありません。床がフラットではない建築は極めて稀です。(フラットでないと床に何も置いたりできませんからね)
柱や壁も見当たりません。真っ白な美術館に作品を飾る壁と、曲面ガラスで囲まれた光庭があるだけです。
白とグレーの床壁、同色のベンチだけで構成されたミニマルな空間に、カラーリーフが茂る光庭がよく映えています。
千住博の絵画と、何のノイズもなく向き合える空間になっています。
床がフラットになっていないのは、元々の地盤レベルに沿って作ってあるからと思います。さり気なく床にスタッドが打ってあり、そこで車椅子の方にも使いやすい床勾配が作られています。入口は高い位置にあり、そこから下っていきながら作品を巡ります。天井は作品のサイズに合わせて高くなったり低くなったりはしているのですが、全体としてやはり床と合わせてある様に感じます。
柱が全く無くても屋根が支えられているのは、絵画のかけてある壁が柱代わりになっているからです。地震の横揺れに対応するため、壁の向きが一方向にせず、色々変えられています。また、一部暗室の壁が地震横揺れを受け持っている構造設計にする工夫がされているからです。
壁がすべて曲面で、入隅がないことで、空間にヒエラルキーもなくなっています。高低差と光庭の位置がその空間に質のグラデーションが作られています。
外部はカラーリーフガーデンになっています。多様な葉色、形状の樹木が目を楽しませてくれます。建築がグレーのシンプルな色使いですので、こちらで華やかさがたされて、玄人好みになりすぎず、全体として誰でも楽しめるものになっていると感じます。
床がフラットではないこと、柱がないこと、間仕切りがないこと、等々普通の建築常識では無い要素が満載です。それがちゃんと新しい建築体験を作っていますので、是非見学にいってみてください。
軽井沢千住博美術館 https://www.senju-museum.jp/special/architecture/
おまけ おすすめ!軽キャンピングカーでの旅行
今回の旅行は軽キャンをレンタルしての旅行とすることで、コストを抑えました。軽井沢はホテルの値段も高いですし、逆に自然が豊かですので温泉などを利用しつつ、キャンピングカー宿泊は有効だと思いました。訪れたのは真夏ですが、エアコンも無く快適に旅行が出来たのも良かったです。
東京近郊には軽キャンレンタル専門のお店もいくつかあるようですので、是非それらを確認してみると良いと思ます。
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