レトロと最新のデザインが交わる街 熱海
熱海は一定年齢以上の方にとっては、昔のハネムーン旅行先、保養所などのイメージではないでしょうか。秘宝館なども未だに存在する、時代に取り残された魅力のない街、、、
今は周回遅れで、逆に面白い街として若年層にも人気が出ているそうです。実際熱海駅近辺には若い女性がたくさんいました。駅前の商店街には、海鮮やスイーツのお店が並び、それを目当てに来ているのでしょうか。東京から近く、温泉と海があることも、やはり観光地としてのポテンシャルが高い地域ですね。
実は建築の見どころがたくさん
では、デザイントラベル視点ではいかがでしょうか。答えは、非常に面白い場所です。
というのは、デザインが優れたものが古い時代のものから現代のものまでまんべんなく楽しめるからです。
古来より湯治の地として知られているため、熱海は江戸幕府御用達の湯、明治大正の豪商の別荘、ハネムーン御用達のホテルなど、古来よりコストをかけて作る必要のある建築を作る場所であり、それらが残っているからです。
熱海駅・ラスカ熱海
デザイン クライン・ダイサム アーキテクツ
駅舎と駅ビルを一体として新築されています。
外装は、熱海の海と空をイメージした青を基調に、色合いを上部から下部にグラデーション状にしてあります。
ローコスト建築では定番の外壁材を用い、パネルごとに色をかえることで外装デザインをまとめてあります。外装には大きなガラス開口がいくつか作られています。
ガラス開口から内部の活動の様子が垣間見えるようにデザインされたのでしょうが、内部はガラスの反射で全く見えず残念です。ガラス部分にフレームをつけるなどすることで、外壁部分とのつくりに差をつけておけばもう少しデザインの意図がわかりやすくなったかもしれません。
MOA美術館
杉本博司+榊田倫之新素材研究所
宗教法人を母体に持つ私立美術館。既存の熱海美術館を現代美術家の杉本博司と建築家の榊田倫之が改修しています。
美術館本館までは下写真のようにエスカレーターでのぼることになります。総延長200mにもなるそうです。間接照明のカラーが変わっていき、何やら怪しい雰囲気担っています。
写真映えはしそうですね。
エスカレーターを登りきった先に美術館本館があります。熱海の市街地からはかなり標高の高い場所にあるので、ここから見る熱海の景色は太平洋がきれいに見えて絶景です。
建物は砂岩張の外装仕上となっており、窓開口も彫りが深く取ってあるので、建物の重量感がよく表現されています。とても端正で美術館らしいデザインです。
展示は工芸、絵画、書などが重点的に集められているようです。それらの展示の鑑賞に最適なガラスケースにて設計されているそうです。照明の反射が非常に少なく、展示品が見やすいです。展示品に合わせ暗い空間には漆や漆喰などの仕上が用いられております。ミニマルなデザインなのでパッと見は気づきにくいですが、よく観察するととてもきれいにデザインされたっ空間になっています。
廊下部分は全面太平洋側にオープンになっています。鑑賞の合間に雄大なパノラマを見ることができます。
MOA美術館は、熱海市街地から離れています。よって周辺には飲食店などは全くありません。かわりに施設内にいくつもおしゃれなカフェや、美味しいレストランを併設してあります。美術館のカフェやレストランは、あまりおすすめできるところはないと思うのですが、こちらはそのまま利用できるレベルのものが充実していておすすめです。
美術館で美術鑑賞したあとにカフェで喫茶、食事を楽しむことができるところも良いです。
アクセス
アクセスは、熱海駅からバスが出ています。
JR熱海駅バスターミナル8番乗り場より「MOA美術館行き」約7分
タクシーでも駅から約5分ほどになります。
旧日向家熱海別邸
渡辺仁+ブルーノタウト
旧日向家熱海別邸は、実業家の日向利兵衛の別邸として1936年(昭和11年)に建てられた建築物で、現在は国の重要文化財に指定されています。熱海市の相模灘を一望できる高台に位置し、その最大の特徴は、世界的建築家ブルーノ・タウトが内装を手がけた地下室があることです。ちなみに上屋は渡辺仁(銀座和光やホテルニューグランドなどを設計)です。
ブルーノタウトは、ドイツ表現主義建築の巨匠であり、日本文化に深く影響を受けました。旧日向家別邸の地下室は、タウトが日本で唯一手がけた現存する建築作品として、非常に貴重です。京都の桂離宮の美しさはタウトが評価したことで、日本内でも再評価されています。
建物は崖地にせり出して作られています。せり出して作るために、まずは土台となるコンクリートをつくり、その上に木造上屋が作られています。
下断面図の様に、木造上屋の下にコンクリの土台を作って、上屋から相模湾の景観を作ってあります。
上屋からの景色は下の写真のように、シンプルな龍安寺風の塀と庭の向こうに、水平線が見えるパノラマが広がっています。崖からせり出して作ってあるので、他の建物も見えません。
きっと、亭主は周辺の目を気にせず、フルオープンでこの景色を楽しむことができたのでしょう。
この建物は地下のタウト設計部分が重視されていますが、上屋も屋根のデザインや、上記の居間からの景観などきっちり計画されている良作ですのでぜひ鑑賞してください。お風呂のタイルの割り付けなども可愛いです。
木造上屋の基壇部分がコンクリで作ってあります。その基壇部分に木造の建物と、先程の庭が乗っています。コンクリ基壇部分が空洞になっており、その内部インテリアをタウトに依頼されたようです。
この地階は、社交の場として設計されています。地上階とは異なり、タウトらしい幾何学的でモダンなデザインが特徴です。社交室、洋風客間、日本間などが配置され、それぞれの部屋の内装も凝っています。
どの部屋もウォルナット調の色あいに調整された木を基調にした空間が、少し角度を変えながら廊下も無く続いていきます。廊下が無く部屋が続いていく構成は日本家屋をさんこうにしたのでしょうか。
社交室の天井は煤竹に吊られた裸電球が照明として用いられています。この照明にまず目がいってしまいます。。こちらは日本の祭りで提灯が並んでいるイメージなどをハレの空間としての社交室に取り入れたのでしょうか。床のフローリングの割り付けや天井の割り付けもかなり凝っています。
洋室客間は、スキップフロア状になっており、階段があります。この階段はよく見ると1段ごとに段差が変えてあります。この段差に座ることを考慮して段差を変えているそうです。ここからいろいろな視点の高さで海を見渡すことができた、いわばチルゾーンとなっていたのでしょう。向いの開口も全面掃き出し窓になっており、ダイナミックな海の景色が見えます。
内装はワインレッドに染色された絹織物です。こういった色彩の用い方が表現主義のタウトの特徴的なデザインになるのでしょう。
デザインは竹が多用されることで、日本のデザインと表現主義デザインを統合させています。
こちらの階段は手すりが竹を曲げて作ってあります。踏み面の形状も特徴的で可愛いです。
インテリアのデザインは、タウトだけでなく、建築家吉田鉄郎(東京の中央郵便局や、京都中央電話局など)や高名な職人が関わっていたそうです。細かいデザインや日本独特の仕上が存分に使ってあるのは、彼らの助言が大きく影響しているのだと思います。
アクセス
予約 熱海駅から歩いて10分ほどです。
※見学は完全事前予約制(ネット予約のみ)となります。詳細・予約は下記HPにてご確認ください。
水/ガラス
設計 隈研吾
旧日向家別邸の近隣に隈研吾の作品もありますので、ついでに見ましょう。
「水/ガラス」は、現在は高級旅館「ATAMI 海峯楼(かいほうろう)」の一部として利用されています。元々は企業の迎賓館として1995年に建てられました。
この建築の最大の特徴は、水とガラスを効果的に使用し、周囲の自然環境、特に海との一体感を創り出している点です。
内部は見学することができないのですが、エントランスのガラスの橋までは見学することができます。
熱海望洋館 熱海でデザインホテルに泊まるなら
設計 地主道夫設計事務所
開放的な空間と相模湾を一望できる眺望が魅力です。現在四季倶楽部というホテルグループが運営しています。元SONY保養所のホテルです。
相模湾を一望できる眺望(ラウンジ、展望温泉大浴場、2階・3階最上階客室など) オーシャンビューの客室(天気が良ければ遠くまで海が見渡せる) 温泉大浴場もあるホテルです。
竹中工務店出身の建築家らしく客室や大浴場のデザインも細部までこだわりが見られる気持ちの良い建築です。
残念なことに現在の運営会社は高級旅館としてのホスピタリティは作り上げていないので、至る所にメンテ不足が見えます。そういったところに目をつぶれば、ローコストで、良いデザインの建築に宿泊できるのは良い経験になると思います。
熱海駅から徒歩圏内という点は、電車でのアクセスを考えている方にとって大きなメリットです。
NEWoMan横浜 熱海からちょっと寄り道
デザイン 田根剛
NEWoMan横浜は、JR横浜駅西口に位置する商業施設です。
「新時代を自由に生きるヒトとともに、STORY(=物語)をクリエイションし続ける場所」をコンセプトに掲げているそうです。
デザインの特徴はタイルです。
60種類にも及ぶオリジナルのタイルパターンを使い分け、それぞれの場所の個性を表現しています。これにより、訪れる度に新しい発見があるような、奥行きのある空間を創り出しています。
タイルを用いたインテリアはどこか中東のスーク(市場)を想起させる、にぎわいの商空間にあったものだと感じます。
また、数か所に分散して屋外テラス空間が設けられており、ちょっと一休みできるベンチやグリーンがレイアウトされています。ともすれば空間的に均質になりがちな商店建築に、光や風の通る場所を作ることで、居所や場所のキャラクターを作ることができています。
まとめ
熱海は重層的な歴史のある温泉街です。その歴史ごとの名建築、デザインをコンパクトに楽しめることもできる街ではないでしょうか。
ぜひ、海鮮、温泉とともにデザインも楽しんでみてください。
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